講演要旨
実時間最適化による非線形システムのフィードバック制御
大塚 敏之(京都大学)
さまざまな動的システムを制御する方法として,ある程度未来までの応答を予測および最適化して制御入力を決定することが考えられる.しかし,フィードバック制御を実現するには,実時間での最適化計算が必要であり,応答の速い非線形システムへの適用は困難だとされてきた.本講演では,時々刻々変化する最適解を追跡するというフィードバック制御ならではの実時間最適化アルゴリズムを解説し,非線形機械システムなどに適用範囲が拡がっていることを紹介する.また,数式処理を用いた自動コード生成についても紹介する.
ナッシュ均衡問題とその拡張 -- 定式化と計算手法 --
福嶋 雅夫(南山大学)
ゲーム理論と数理最適化(数理計画)はともに20世紀半ばに確立された学問分野であり,その創成期においてゲーム理論と数理計画の両分野で重要な貢献をした数学者や経済学者は少なくない.その後,前者は主に経済学において諸問題を分析する基本的な方法論として,後者は主に工学や社会科学における様々な問題解決の方法論として発展してきたが,そもそもゲームは複数のプレイヤーが何らかの意味で自己の最適化を行う状況を表したものであり,ゲーム理論と最適化理論のあいだに密接な関係があることに変わりはない.近年,ゲーム理論の基本的な問題の一つであるナッシュ均衡問題を拡張したいくつかの問題が数理最適化の一部の研究者の興味を引いている.本講演では,それらの試みのいくつかを紹介する.
メカニズムデザインと最適化
横尾 真(九州大学)
ある環境に存在する人間の集団に対して,集団としての意思決定のメカニズム/制度を導入すると,何らかの社会的な結果が得られる.望ましい結果を得るためのメカニズムの設計方法に関する研究は,メカニズムデザイン/制度設計と呼ばれ,ゲーム理論/ミクロ経済学の一分野として活発な研究が行われている.メカニズムデザインに関する著名な研究成果として,1996 年にノーベル経済学賞を受賞したW. Vickrey による第二価格入札に関する研究がある.従来,第二価格入札は理論的に優れた性質を持つにも関わらず,広く用いられるには至らなかった.ところが,近年,検索エンジンでのキーワード広告において,第二価格入札が用いられるようになり,今や第二価格入札は世界中でもっとも頻繁に実行されている入札方式となっている.
従来,このような望ましい結果を得るためのメカニズムは人手により開発されてきたが,メカニズム設計をある種の最適化問題として表現し,望ましい性質を持つメカニズムを自動的に生成しようとする研究が行われている (自動メカニズムデザイン). 本講演では,メカニズムデザイン,および自動メカニズムデザインに関して概説し,機械学習や法則発見等の研究との関連について議論する.
分散型エネルギー需要・供給ネットワークにおける分散化・統合化とメカニズムデザイン
平田 研二(長岡技術科学大学)
分散型のエネルギー需要・供給ネットワークは, 個人の利得を追求し戦略的な振る舞いをする多数の異種エージェント, およびこれらを組織化し社会としての利得確保を目指すユーティリティーから構成されると捉えられる. ここでは, 公共の目的達成を保証するためにユーティリティーのとるべき方策を考える. また, エージェントの戦略的な振る舞いに対処するための社会システムのデザインについて考察する.
分析力でビジネスを変える〜企業で活躍できるデータサイエンティストとは〜
河本 薫(大阪ガス)
いまや,「データ分析が競争を制す」と言われる時代.データ分析は,たしかに使いようによっては,仕事の効率化,売上大幅アップなど,企業を変革するくらいのインパクトを持つ.しかしその一方で,高い分析ソフトを買ったものの,宝の持ち腐れで終わっているという会社も少なくない.また,いくら分析の得意な人間を増やしてもそれだけで実績が上がるわけでもない.では,分析力を武器にできる会社は何が違うのか? また分析力を武器にできる個人は何が違うのか? 事例を交えながら,その違いを明かします.
仮想計測技術を基盤とした品質監視と操業最適化
加納 学(京都大学)
製造業においては顧客要求を満たす製品を安定に製造しなければならないが,肝心の製品品質がリアルタイムに計測できないために,不良ロットの廃棄など高コスト製造を甘受している現場も多い.この問題を解決するために,仮想計測技術がますます重要になりつつある.ところが,操業データから品質を推定するに際して,装置特性や運転条件の変化による推定精度の劣化が大きな問題となる.本講演では,石油化学・半導体・製薬など各種産業界での応用事例を交えながら,Just-In-Time型モデリングを中心に,仮想計測技術を基盤とした品質監視と操業最適化の現状を紹介する.